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40代後半になっても自分の生き方、進む道が分からない男のブログです。「40にしても惑う」人間の悩みや日常の思考などを趣味も交えて書いています。

アンドロイドは電気羊の夢を見るか/フィリップ・K・ディック

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ご存じ、映画「ブレードランナー」の原作です。
 
核戦争により地上は汚染され、大半の地球人は火星へ脱出したものの、地球に残っている僅かな人間社会を描いた近未来を舞台としたSF小説
 
過酷な火星の環境で作業に従事させるアンドロイドを人類は開発するのですが、その開発力は年々向上し、今や人間と見分けが付かないぐらいに精巧なものを作り出しているのです。
 
しかし、中には苦しい作業に耐えかねたアンドロイドが、主人である人間を殺して脱走する事件もしばしばあります。
 
そのようなアンドロイドを捕獲して処理する仕事を専門にしているのが、主人公デッカードのようなバウンティハンターと呼ばれるものです。
 
映画では、ブレードランナーという呼び名でしたね。
 
ほとんどの動植物が死滅した地球において、生きている動物を飼う事がステータスであり、また主人公デッカードの生きていくモチベーションでもあるのですが、実際に彼が所有しているのは電気機械の羊でした。
 
映画では、このあたりはあまり深く触れられていませんでしたが、小説においては、かなり重要な設定となっています。
 
あるとき、デッカードの同僚が6人の脱走アンドロイドを処理しようとして失敗、重傷を負い入院します。
 
その同僚の代役としてデッカードに仕事がふられ、彼は本物の動物を購入するために淡々とアンドロイド達を処理しようとするのですが、、、。
 
アンドロイド処理を機械のようにこなす一方、家では電気羊を本物の動物のように飼うという矛盾。
 
そして、人間と同じように感情を持ち行動するアンドロイドと人間の違いは何なのか?
 
デッカードは悩みながらも、仕事をこなそうとします。
 
本物の動物を手に入れるため。
 
アンドロイドかどうかを見分ける為のテストがあるのですが、それが「共感テスト」。
 
本物そっくりに作られている彼らが、唯一持ってないものが「共感」なのですが、これって、つまりは著者ディックが考える人間たる所以が「共感」であると捉えていることです。
 
人間は人間同士の共感はもちろん、ペットのような動物だったり、モノだったり、音楽だったり絵画だったりと、様々なものに対し共感する生き物であるといえます。
 
主人公がアンドロイド達に共感した時、彼らを処理する行為は仕事ではなく、殺人と同じ意味を持つようになるんですよね。
 
作中、マーサー教という宗教が登場するのですが、そこでは共感ボックスという装置を使うことで、教祖マーサーと共感できる場面が何度も出てきます。
 
そういう装置や宗教が登場するぐらい、主人公達がいる世界は人間としての共感が失われた世界であり、奇しくも処理対象のアンドロイド達に共感できる事を発見する主人公デッカードの驚きと気づきの物語でもあるのです。
 
ただ、この共感という能力、素晴らしいものでありますが、同時にやっかいなものでもあります。
 
共感できない相手、人種であれば殺してもよいとか、クジラに共感できるから捕鯨はダメだとか、そんな状況も生み出すわけですから。
 
そう考えると確かに、この作品は名作だと思います。