ラッシュライフ/伊坂幸太郎
実は、伊坂氏の作品はこれが初体験でした。
面白く人気があるというのは聞いていたのですが、なかなかここに手が届かなかった。
単純に、僕が本を読むスピードが遅い割りに、積読本が多すぎただけの事なんですが。
並行して5つの物語が進み、後半に進むにつれてそれらが帰結する構成となっています。
読み始めてすぐは戸惑いますが、すぐに内容に引き込まれてしまい、一気に読んでしまいました。
もちろん、すごい作品だなとは思いますが、伏線とかが多すぎて、何と何があったっけ?と思い出すのが大変だったのも事実。
読み終わっても、たぶん、全部の伏線は回収されたんだよなって、自分で納得するしかなかったです。
登場する物語は以下のとおり。
①画商の戸田と画家の志奈子
②泥棒稼業の黒沢とその同級生である佐々岡
③新興宗教の教祖を崇める河原崎と塚本
④精神カウンセラーの京子とサッカー選手の青山
⑤失業中の冴えない中年男性の豊田と野良の柴犬
この作品を読んでいて感じたのは、軽妙なセリフ回しとか、名言とも呼べるもっともらしい言葉が多いってこと。
泥棒である黒沢と同級生佐々岡との会話なんか、実に素晴らしかったです。
ただ、それぞれの物語の時間的経過が実は前後していて、そこで少し混乱もします。
最初は、それぞれ時間の流れに沿って物語りが進んでいるものと錯覚するのですが、どうやら違うということに気付きます。
「これより1時間前」とかって説明が全然ありませんので、そこは自分で類推しながら読むしかない。
ただ、とりあえずは時間経過の様子が掴めなくても先に読み進めてもかまわないでしょう。
それで作品の面白さが損なわれることはないはずです。
作中、「人生はきっと誰かにバトンを渡すためにある。今日の一日が別の人の次の一日に繋がる。」というセリフが出てきます。
名言ですね。
このセリフにあるように、それぞれの物語が次々にバトンを渡していき、ラストへと向かっていくのですが、こういう展開をきちんと書けるのはさすがとしか言いようがありません。
ただ、カウンセラーの京子がバラバラ死体に対する恐怖や驚きがなさすぎるというか、免疫がありすぎるような描き方はちょっとどうかなと思いましたが。
普通であれば、あんなに冷静に対処できないと思うんですけどね。
車のトランクから死体を出したり、入れ替えたりとかは、それはそれでけっこう重労働なはずで、割とたやすい感じで描いているのも少しリアリティが欠けているかも。
なのでバラバラ死体の種明かしとしては、個人的には消化不良でもありました。
ただ、全体としては非常に面白く読める作品であり、これ以外の伊坂作品にも手を出してみたいと思う本であります。