奇跡の人/真保裕一
若干ネタバレ含みますので注意してください。
交通事故で失った記憶を取り戻そうとする、ある青年の物語、とだけ書くともの凄く感動的な小説なのだろうと思われますが、この作品に関しては半分しか当てはまりません。
確かに、タイトルも「奇跡の人」ですから、それらしいっちゃそうなんですが。。
主人公である相馬は、交通事故で瀕死の重傷を負い8年間の入院生活を送ります。
彼は脳死判定を受ける寸前だったのですが、そこから奇蹟の回復を見せ退院できるまでになります。
ただ、彼の記憶はいっさい失われており、且つ、生まれたての子供のような状態からリハビリがスタートしたのであります。
彼が回復するまでの様子や心情を母親が日記形式で記録しているのですが、その母親が病気で亡くなってしまった為、主人公は事故以前の自分について知りたいのだけど、教えてくれる人がいないという状況になってしまうのです。
この小説は、その母親の日記部分が時系列で挿入されながら物語が進んでいきます。
物語前半は、事故以前の記憶を失い、30歳過ぎにも関わらず中学生程度の知識まで何とか回復できた男の社会復帰ストーリーという感じで、温かい気持ちを持って読めたんですよね。
ところが、途中から雰囲気が変わってきます。
具体的には、主人公が過去の自分を知りたいという欲求が抑えられなくなり、周囲の声も聞かずに勝手に行動し始めるあたりからです。
この辺になると、読んでいる方としてもこの主人公になかなか肩入れできなくなり、そりゃお前さん、ちょっとワガママすぎんじゃないの?という目で見るようになり、イラッとしてきます。
彼のワガママで自分勝手な行動は、過去に関わった人達を巻き込み、時には傷つけ合う状況に陥るのですが、それでも彼は止まりません。
こうなると「お前いい加減にしろよ!」と、読者が主人公をどつく感じになります。
特に昔の彼女につきまとう様子は、完全にストーカーであり、とても純愛物語とは言い難い描写なんですよね。
さくっと書いてしまうと、主人公の過去の人間像は、いわゆる町のチンピラ風情のようなヤツで、母親は事故で彼の記憶が無くなった事を幸いに、復帰後は全く違う人生を歩めるようにとそういった負の記憶に関する事は一切隠蔽したのです。
母親は、そのために引っ越しもし、当時交流のあった人達とも連絡を絶ち、付き合っていた女性には「脳死宣告された」と嘘をつくのです。
奇跡の人と呼ばれるほど危機的状態から回復した主人公が、実は、記憶を無くす前はチンピラで、でも昔の彼女に対する気持ちは本当に純粋な愛でした、というオチに思えそうですが、物語はラストでもう一回ドンデン返し?のようなオチが待ってます。
そこまで読むと、なるほどねぇって感嘆はするのですが、それはあくまでストーリー構成のテクニック的な部分に感心するんですよね。
裏書きとか帯には「感動ストーリー」とあるんですが、自分はそう思えませんでした。
主人公にいらつく部分が多すぎて、そういう感情移入ができなかったからだと思います。
それに、なんつうか、無駄に長い気がしないでもない。
手に取ってみるとわかりますが、非常に分厚い本です。
もちろん、読めばサクサクと進められます。
ですが、読み終わってみると長いなぁという印象。
そんな作品でしたね。