走ることについて語るときに僕の語ること /村上春樹
村上春樹は好きな作家であり、ほぼリアルタイムで読んでいる数少ない作家でもあります。
小説はもちろんですが、実はエッセイの方が好きかもしれません。
これもエッセイ本の一つですが、エッセイ本としては少しヘヴィな内容かもしれません。
どちらかというと、哲学書とか啓発書に近いかも。
僕が勝手にそう思ってるだけですけどね。
タイトルからわかるように、ランナー向けの本ともとれますが、生き方の指南書でもあります。
さらに、村上氏が小説家としてあり続けるための方法論を書いてる内容でもあります。
長編小説を書くことと走ることは、基本的に同じであるということも、読んでいてよくわかります。
そして、村上春樹氏が極めて常識的な人間であるということも。
「書きながら物を考える、考えたことを文章にするのではなく、文章を作りながらものを考える。書くという作業を通じて思考を形成していく。書き直すことによって思考を深めていく。」
すごく共感できた部分です。
僕もブログ記事を書くとき、最初は書きたいことを文章にしているんだと思ってましたけど、ずっと続けているうちに書きながら考えを整理しているということに気づきました。
村上氏と僕とでは全然レベルが違うのですが、同じだと分かった時の嬉しさはありませんでした。
昨今はランニングブームであり、健康のために走っている人がほとんどだと思います。
でも、この本を読むと、健康のためにランニングするというのがどうでもよいと感じてしまいます。
人がよりよく生きるために走っている、というのが第一であり、健康効果はあくまでも付随効果にすぎません。
僕は、まだ走ってませんが、僕のような人間こそ走るべきなんだろうなと思い知らされました。
他にも、共感できる文章が出てきますの、少しだけ抜粋してみます。
「サマセット・モームは”どんな髭剃りにも哲学がある”と書いている。どんなつまらないことでも、日々続けていれば、そこには何かしらの観照のようなものが生まれるということなのだろう。僕もモーム氏の説に心から賛同したい。」
「昨日の自分をわずかにでも乗り越えていくこと、それがより重要なのだ。長距離走において勝つべき相手がいるとすれば、それは過去の自分自身なのだから。」
「どんなに走るスピードが落ちたとしても、歩くわけにはいかない。それがルールだ。もし自分が決めたルールを一度でも破ったら、この先更にたくさんのルールを破ることになるだろうし、そうなったら、このレースを完走することはおそらくむずかしくなる。」
「そこにいたるために、しつこく、厳しく、そして我慢強く、個別パートのねじが締められていく。もちろん時間はかかる。しかしある場合には、時間をかけることがいちばんの近道になる。」
この本を読むと、村上春樹という作家と出会えてよかったと改めて思えました。
ボリュームはそこそこありますが、あっという間に読むことができます。