大学を5年かけて、やっとのことで卒業したくろばこは、自己紹介記事等でも書いているように、まっとうな就職活動もせずに、お手軽に入れる会社に履歴書を持って行き、どんな事業をやっているのかも知らないまま、最初の就職となった次第でした。
その会社は、大阪に本社がある建材卸商社で、我が地元に営業所があり、そこの所長裁量で採用されました。
この営業所での仕事が社会人スタートだったのですが、どうやら、自分は営業マンらしいということ、地元の建設会社や設計会社などに飛び込み含めて営業に行くこと、売るものはコンクリートやガードレールといった建設資材から生活用品まで何でもありということをようやく理解しました。
笑えますよね。
実際に働き出してから、自分がどんな仕事をするか分かるなんて、大間抜け野郎もいいところです。
当時の僕は、働くことに関してそんなに貪欲じゃなかったし、斜に構えて世間を見てたのもあります。
ようは舐めてただけなんですが。
そこの営業所には僕以外に4人の社員がいました。
60歳を過ぎた口やかましい所長、30代半ばのベテラン営業マンA氏、20代半ばの高卒元ヤンキー営業マンB君、50代の女性事務員という構成。
僕の指導係は、当然のことながらベテランA氏だったのですが、資材配達の手伝いとか現場立会とかでよくB君とも一緒に行動してました。
B君は僕より2つ年下で、既にお腹も出ているムーミン体型、乗ってる車はヤン車仕様のセドリックという、どこにでもよくいる中高生時代はちょっとだけヤンキーでした的な若者です。
要は暴走族やってるとか、ケンカ上等とか、そんな気合いが入ったヤンキーではありません。
B君と話していると、会社では先輩であるにも関わらず、年上新人の僕にちゃんと敬語を使ってくれたりする気遣いもできます。
ただ、やっぱりヤンキー系なので、というと語弊があるかもしれませんが、どうしても話しの主軸が女のことや下ネタ、今日はどこで寝ようか(外回り営業マンあるある)とか、早く休みになんねぇかなとか、上司の悪口とか、そんなのが大半でした。
ヤンキー系の特徴として、B君はマンガはもちろん小説も読まないし、映画も見ないし、音楽はカラオケで歌いたい曲しか聴かないし、ゲームもやらないしで会話の接点は非常に少ないのですが、まあ、地元ネタとかで2人だけになるとよくくっちゃべってました。
当然、B君は仕事を怠けること前提だし、数字も上がらないし、しょっちゅう所長や上司に事務所内で怒られていました。
朝一番から外回りに出て夕方まで、ゲーセンで過ごしたとかって話しをよく聞きましたね。
逆に僕は、小賢しく要領が良かったので、ポイントだけ押さえて仕事をし、一応の数字は上げておいて、でも、B君と二人になると会社の悪口とか愚痴を言い合ってました。
しかし、そんな小賢しい僕のやり方がいつまでも通用するはずもなく、また、元々が営業マンという仕事に面白さを感じることができなかったこともあり、本当に毎日朝から夕方まで外で時間を潰して終わるという状況になっていきます。
当然数字も上がらず、所長からもあれこれ言われるようになって、嫌気が差して退職することになったわけです。
B君とは、その後、何年かして一度会ったことがありましたが、まだその会社に勤めているということでした。
ベテラン社員のA氏が、数字が上がらなくなって鬱病になり最後は離婚もしたという情報や、その営業所が廃止されて他の営業所に吸収されるらしいとか、まあ、色々とあるみたいねという感じでした。
その時も、B君がまだ同じ仕事続けているのに少し驚いたのであります。
そして、先週、自分の職場近くのコンビニの駐車場で休憩していたところ、僕が最初に就職した会社の営業車が入ってきました。
うわ、懐かしいなと思って見ていると、運転席から降りてきたのは、紛れもなく元ヤンのB君ではありませんか。
もう、びっくりでしたね。
まだ勤めてるの?って。
僕が辞めてから、20年近くは経つはず。
B君はその会社では、僕より3年ぐらい先輩だったから、もう23~25年勤め上げている大ベテランということになります。
ただ、B君に話しかける気にはならず、ただ、車の中かから見てるだけでしたが。
その時思ったのは、B君は何故会社を辞めずに続けられたのだろうという疑問でした。
遅かれ早かれ、B君の勤務態度や成績では居づらくなるはずだし、本人もやる気ないし他に良いところあったら辞めたいと話していたのです。
当時の所長は、非常に口が悪く、今のご時世なら確実にブラック上司というレッテルを貼られていたような人でした。
その所長がB君に対し「本来ならお前に払える給料なんてない。自分の給料も稼げないクセによく平気でいられるな」などと、朝礼で罵倒していました。
それを聞いて僕は、よくB君は憤慨しないなぁとか、耐えてるよなぁとか思っていて、逆に自分はそんなこと言われないようにやっていこうと思ってたんですよね。
実際、B君も腹は立っていたみたいですけど、それだけなんですよね。
特に意に介してないというか、暖簾に腕押しというか。
これじゃあ、上司や所長も逆に気の毒だなと感じたぐらいに、怒ってもB君には手応えがないのです。
何を言われても、例え自分のプライドを傷つけられるような言葉を浴びせられても受け流せることができたのはB君、未だに受け流せないのがこの僕。
20年以上経って、気付かされましたね。
B君の凄さに。
仕事ができなかろうがなんだろうが、最終的に自分のスタイルを崩さず、ブラック上司の罵詈雑言もBGM程度に聞き流し、僕が辞めた会社に残っている彼に尊敬の念すら覚えました。
僕はどこかで、元ヤンで見積計算もしょっちゅう間違えるB君をどこか下に見ていましたし、どこにでもいるタイプの人間ぐらいにしか思っていませんでした。
言っておきますが、元ヤンだろうが中卒だろうが、バンドやってる、音楽やってる連中とはやっぱり仲良くなりますし下に見ることもしません。
共有するものがあるからでしょうね。
そういった意味において、B君とは共有できるものが無かったため、まあ、B君も近いうちに会社辞めるんだろうなという見方しかしてなかったんですよね。
彼を甘く見てましたし、うわべしか見てない僕の浅はかさを、最初に就職した会社の、デキが悪いと思っていた人間に気付かされるというのは、ちょっとした驚きであり発見でした。